2015年9月11日金曜日

戦後70年「安倍談話」に関する韓国メディア等の反応

 9月1日に行われた「『慰安婦』問題をめぐる報道を再検証する会」における康昌宗の報告概要は以下の通り。

1. 韓国政府の論評戦後70周年安倍首相談話に対する韓国外交部代理人の論評(8月15日)(※ハングル)
 『昨日安倍首相が発表した前後70周年談話は、今の日本政府が植民地支配と侵略の過去をどのような歴史観で見ているかを、国際社会に如実にさらされるきっかけとなりました。

それにもかかわらず、政府は安倍首相が今回の談話で歴代内閣の歴史認識が今後も揺るぎないと明らかにした点について注目し、果たして日本政府がこのような立場をどのように具体的な行動に実践していくかを見守ることにします。これと関連し、日本政府が日本軍慰安婦被害者の問題など韓日間における過去の歴史懸案の早期解決のために、より積極的に乗り出すことを促します。


(韓国)政府は歴史問題については、原則に基づいて明確に対応するが、北朝鮮の核・経済・社会・文化など互恵的分野での協力と北東アジアでの平和と繁栄のための域内協力は継続的に強化していく基調を堅持してしていきます。また政府は、日本政府が隣国として正しい歴史認識を土台に新しい未来に進む旅に参加することを期待します。』


 談話発表の日でなく、翌日に外交部代理人による非常に抑制的な評価。

2. 韓国挺対協の論評 ・【挺対協声明】安倍談話に対する立場(8月14日)  「36年の不法統治で苦痛を受けた韓国に対する植民地支配の責任も取り上げなかった」、「戦後50年と60年に出された談話を踏襲くらいはするという期待まで水泡に帰した。 何を反省しているのかすら分からない中身のない反省文・自己陶酔的修辞に過ぎない」、「日本の過去の歴史を清算し戦犯国の責任を果たし平和に貢献はできなくても、どうか妨害だけはしないでほしい。」と、安倍政権への微かな期待も捨てたと宣言したように思える。
 「巧妙な言葉遊びで一貫した安倍談話でまたもしてやられた韓国政府も、日韓関係改善に汲々とし再び自らの役割を担えない無能な政府に転落してはならない」と、韓国政府の今後の妥協の可能性に釘をさす。


 3. ハンギョレ新聞 ・[社説]敗戦70年の安倍談話、最悪は避けたものの (8月15日) ・安倍談話、植民地支配への具体的な謝罪なし(8月14日)
 ハンギョレ新聞社説の『形式的には私たちの要求を受け入れた面もあるだけに、今後それをどのように実質的な内容として引き出すのかというのが我が国政府の課題といえる。』との記述は、談話をめぐる情勢認識として甘いと思える。
 ハンギョレ日本語版責任者のキル・ユンヒョン特派員は、本国の論説委員たちより日本政府の思惑をより深く掴み、より厳しい評価をしている。
4. Oh my news (インターネット新聞)安倍談話の鳥肌が立つ一文 (8月15日)  「安倍談話」をキーワードにした検索で上位に位置し、SNSを中心にいまだに拡散されている。
 韓国で記録的なベストセラーだったマイケル・サンデルの「正義とは何か」を基にして、非常に難易度の高い記事にも関わらず、多くの人に読まれている。
 普遍的な「正義」を考えることを好む韓国人に合っているように思える。
5. 朝鮮日報 ・【社説】巧妙に植民地支配への謝罪を避けた安倍談話(8月15日)  他人の口を借りて反省・謝罪しているような印象を与える。  反省・謝罪する対象は、ほとんどが中国・米国に対して行った満州侵略と第2次大戦に関するもの。  植民地の圧政の中、数多くの人間が拷問で命を落とし、数十万人が強制徴用・強制移住の苦痛を味わった韓国に対しては、一言の言及もなかった。  談話一つを理由に日本との関係で全てを断つ、というのは賢明な選択ではない。  談話に現れた安倍首相とその内閣の属性を記憶しつつ、間違った歴史認識に立ち向かう国際協調をさらに強化する必要がある。
6.  中央日報 ・【社説】光復・分断70年…過去を踏まえて未来に進もう(8月15日)
 誰が誰に何のためにする謝罪なのかをあいまい  朴槿恵政権は慰安婦問題が解決されるまでは日本と首脳会談をしないとあらかじめ線を引き、自らを束縛する愚を犯した。
7. 東亜日報[シム・ギュソンコラム]安倍談話の限界、朴大統領の切除
(8月17日)(※ハングル) 「9月に中国戦勝式典出席、10月米国訪問などを経て、11月ごろには議長国として日中韓首脳会談を必ず開催し、日韓関係を正常化させる突破口を用意しなければならない。世論も力を合わせなければならない。日韓問題はいつも敏感である。だから国益と世論が衝突すると、世論に乗る大統領が多かった。しかし、大統領は国民と他の選択をしなければなら時もある。 『最も反日的だった』大統領がなぜ和解を模索するか、忍耐を持って見守る必要がある。」
8. 左派と右派の新聞社説比較[社説比較]ハンギョレ・中央日報、「安倍談話」の社説比較を見る  中央は、朴槿恵政府が「慰安婦問題が解決されるまでは、日本との首脳会談をしない」と事前に線を引くことで、国益のために外交的柔軟性を発揮できる余地をなくして、日本がどのような立場を表明したかによって政府の立場が決定される、受動的立場なってしまったという。
 ハンギョレは、日本に振り回されないようにするには、外交当局がさらに徹底した論理と粘り強い姿勢で臨まなければならないと注文している。
※韓国の新聞社の発行部数について
・主な新聞社の2013年度販売部数 朝鮮日報 129万部、中央日報 81万部、東亜日報 70万部、ハンギョレ20万部、京郷新聞 17万部
 ・朝中東(朝鮮日報、中央日報、東亜日報)の有料部数は「ヒタヒタ」、10年間で半減(ハングル)
 3社合わせて281万部、2002年比200万部減少...集計信頼性の疑問、実際にはより減っている?
 ハンギョレのある支局長は、「朝中東の場合、3日前にABC協会から訪問を伝えると、本社電算チームが降りてきて実績が良い他の支局の読者管理プログラムを開ける場合もある。 ABC協会の調査はでたらめだ」と主張した。ABC協会は、四半期ごとに、新聞社から部数結果の報告を受け、30カ所の標本支局を現場調査した後、現場調査の結果や新聞、使用者側の結果の信頼度(ギャップ)を勘案し部数を測定する。 ABC協会は、劣悪な労働力とサポートの欠如に現場調査の困難に直面している。
昨年日刊紙上位20社の発行部数、前年比44万5千部の減少...「新聞の危機」(ハングル)
 
9. 韓国元外務官僚の論評 ・[ハフィントンポスト]安倍首相の「戦後70年談話」に潜む「植民地」への優越感(8月21日)
 安倍首相の「戦後70年談話」に潜む「植民地」への優越感」』(原文)は、金泳三政権の外務省職員だった趙世暎(チョ・セヨン)教授。その提言は、保守と革新の官僚への影響力が大きいと考えられる。
 「反省と謝罪を要求する」という表現を用いるよりも「最低限、日韓関係の『4大重要文書』の内容を一貫して堅持する」ことを要求する形が望ましい。韓国の要求はさらなる謝罪ではなく、すでになされた謝罪に反する言動を控えることだと明らかにすべきだ。4大重要文書とは、河野談話、村山談話、日韓パートナーシップ共同宣言、菅談話のことだ。
10. 日経ビジネスオンライン韓国メディアは安倍談話を批判:「日本政府の歴史認識は大幅に後退」(8月17日)  韓国人ジャーナリストによる韓国メディアの反応のまとめ。
11. 言論NPO日中韓3カ国、有識者調査結果 ~日中韓の有識者は「安倍談話」をどう見たか~(8月25日)

【設問】「安倍談話」を評価するか
【回答】
調査対象 評価する(*1) 評価しない(*2)
日本 45.6% 41.7%
中国 21.4% 56.9%
韓国 5.7% 83.1%
【設問】「安倍談話」が、日本のアジアに対する侵略戦争について反省している内容になっているか
【回答】
調査対象 感じた(*3) 感じなかった(*4)
中国 20.8% 64.7%
韓国 2.5% 88.7%
*1〜*4 「どちらかといえば」を含む
 安倍談話は、中国と米国の間で揺れ動く韓国政府の弱い立場を利用して、歴代内閣で進めてきた植民地支配に関する歴史認識を後退させて、1930年代以前の日本の史実を歪曲化させた。
 韓国と中国との離反にある程度成功していると言えるのではないか。
 安倍政権は、韓国を孤立化させても、韓国政府が最終的には米国と日本の圧力に負けて、日本と妥協すると考えているのではないだろうか。

12. 日韓世論調査(東京新聞)70年談話「評価しない」 韓国で79% 「首脳会談必要」は54%(8月20日)
 「安倍晋三首相が十四日に発表した戦後七十年談話に対し、日本では評価する人が39%で、評価しない人を上回ったが、韓国では評価しない人が79%に上り、認識の差が鮮明になった。」
  東京新聞編集委員・五味洋治氏の「韓国側でも、日本が一定の反省と謝罪をしていることを認める人がわずかだが増え、相互理解の兆しが見えた」との記述は、勝手な憶測としか言えない。

(文責:康 昌宗)

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